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東京地方裁判所 昭和46年(ワ)4780号 判決

原告

木下孝

被告

有限会社勇和ドレス

ほか三名

主文

一  被告らは各自原告に対し金七四八万八一三四円およびこれに対する昭和四六年六月二二日から支払済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの連帯負担とする。

四  この判決主文第一項は仮りに執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

(原告)

一  被告らは各自原告に対し一〇三八万三三三五円およびこれに対する昭和四六年六月二二日から支払済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言

(被告ら)

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決

第二当事者の主張

(原告)

一  事故の発生

原告は次の交通事故によつて傷害を受けた。

(一) 日時 昭和四三年六月五日午後四時三〇分頃

(二) 場所 葛飾区東堀切二丁目二〇番二一号先交差点

(三) 甲車 普通貨物自動車(足立四み七七九四号)

運転車 被告嶋崎富志代

(四) 乙車 普通貨物自動車(足立四す六七一一号)

運転者 訴外竹下喜久蔵

(五) 被害者 歩行中の原告

(六) 態様 前記交差点において甲車と乙車とが出合頭に衝突し、その結果乙車が半回転滑走して道路端を歩行中の原告に衝突した。

(七) 傷害 右事故により、原告は脳挫傷、前頭部挫創、前頭骨陥没骨折、顔面挫創、硬膜内外血腫の傷害を受け、六度入院(通算日数一一六日)し現在なお通院中(実日数二三二日)を要する治療を受けたが完治せず、右眼失明、前頭部骨欠損、三重線状傷痕、神経症状、脳波異常の後遺症が残存している。

二  責任原因

(一) 被告勇和ドレスは甲車を所有し、これを自己のため運行の用に供していたものであるから自賠法三条の責任がある。

(二) 被告嶋崎富志代は見通しの悪い交差点において一時停止又は徐行すべき義務があるのに漫然時速四〇キロメートルで進行した過失があるので民法七〇九条の責任がある。

(三) 被告嶋崎は被告勇和ドレスの代表取締役として同被告の業務執行中の被用者である被告富志代を直接指揮監督していたものであるから民法七一五条二項の責任がある。

(四) 被告相谷組は訴外竹下喜久蔵を使用して乙車を自己のため運行の用に供していたものであるから自賠法三条の又同訴外人には同被告の業務執行中徐行義務および安全運転義務を怠つて時速三五キロメートルで交差点に進入した過失があるので民法七一五条第一項の責任がある。

(五) 被告相谷勝寿は被告相谷組の代表取締役としてその業務の執行中の被用者竹下喜久蔵を直接指揮監督していたものであるから民法七一五条二項の責任がある。

三  損害

原告に生じた損害は次のとおりである。

(一) 治療関係費 一四四万七六〇三円

内訳

入院治療費 一〇九万〇〇〇三円

入・通院付添費 二三万二〇〇〇円

入院雑費 三万四八〇〇円

特殊義眼代 九五〇〇円

将来再手術のための入院治療費 三万五〇〇〇円

〃入・通院付添費 二万六〇〇〇円

〃入院雑費 六三〇〇円

〃通院交通費 四〇〇〇円

(二) 逸失利益現価 六三三万一七八二円

(年令)七才の男子 小学校二年生(事故当時)

(稼働期間)一八才~六三才

(労働能力喪失率)五六%

(収入)労働者労働統計調査部編「賃金構造基本統計調査」昭和四三年第一巻男子労働者の平均賃金(年収)による。

(中間利息)年五分の割合によるホフマン式計算による。

(三) 慰藉料 四二四万円

前記傷害および後遺症ならびにプラスチツク形成再手術および治療のための欠席による原級留置の処分、これらによつて原告の両親にかけた多大の精神的苦痛等諸般の事情を考慮すると慰藉料としては右金員が相当である。

(四) 損害の填補

原告は自賠責保険金一七五万円、訴外竹下喜久蔵からの一部任意弁済三八万六〇五〇円を受領しているのでこれを右損害額から控除する。

(五) 弁護士費用 五〇万円

原告は被告らが責任転嫁をはかり、賠償を尽くさないので本訴追行を余儀なくされ、これを原告代理人に委任したことにより負担した債務は五〇万円である。

四  よつて原告は被告らの各自に対し右金員およびこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和四六年六月二二日から支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(被告勇和ドレス、被告嶋崎、被告嶋崎富志代)

一  原告主張第一項の(一)ないし(六)の事実を認め、同(七)の事実は不知

同第二項(一)ないし(三)の事実中、被告嶋崎が被告勇和ドレスの代表取締役であることは認めるが、その余の点は争う。

同第三項の事実はいずれも不知

二  不可抗力もしくは免責の主張

甲車の進行していた道路は、幅員一二メートル以上の広路であり、乙車の進行していた道路はわずかに幅員四メートルの狭隘な道路であつて、甲車には徐行義務はなく、通常の運転をしていた甲車には何ら過失はない。

たとえ甲車に徐行義務があるとしても、乙車は甲車の直前に飛び出したものである。そうすると徐行したとしても本件衝突は不可避であつたと考えられる。

仮りに甲車に過失ありとしても、甲車は広路車であるから乙車との過失割合は二対八程度になるものというべきである。

三  逸失利益について

原告の逸失利益は一眼失明の点だけを考慮し、八級によつて計算すべきである。又、原告は、就労前の年少者であつてその後遺症の影響の少い職種に就労し、かつ就労後においても労働に対する適応能力を有するので将来徐々に労働能力を回復するものと解されるので四五%から五年毎に五%づつ能力を回復するとしても算出するのが相当である。

四  逸失利益の算定について

原告は事故当時七才であり、稼働開始まで長期間の年数がある。右眼失明による労働能力の喪失はあつてもその影響のない職業に就くことは充分可能であり、又生活上の不便も慣れや訓練により克服しうるものである。

(被告相谷組、被告相谷勝寿)

一  原告主張第一項の(一)ないし(六)の事実を認めるが同(七)の事実は不知

同第二項(四)、(五)の事実中、被告相谷組が訴外竹下を使用していたこと、被告相谷勝寿が被告相谷組の代表者であることは認めるがその余の事実は否認する。

同第三項の事実はいずれも争う。

二  免責の主張

乙車は約五メートルの幅員の道路から約一〇メートルの道路と交差する交差点に進入する際、時速二〇キロメートル程度で左右の安全を確認した。そして交差点に進入したところ右方約三〇メートルに甲車が進行して来るのを発見したが、相当の距離もあり当然甲車は乙車に気付いているものと思い衝突の危険を感じなかつたので、そのまま進行して交差点の中央部分を越えて、約五〇センチ程中心部の手前に後部があるにすぎない程度となつたところ、甲車がブレーキを踏むことなく、先入していた乙車の後部に衝突してきたものである。

よつて本件事故は甲車運転者の一方的過失によつて生じたもので訴外竹下および被告相谷組には過失なく、乙車には構造上の欠陥および機能の障害はなかつたから、被告相谷組は自賠法三条但書により免責される。

三  無断私用運転の主張

被告相谷組は土木建築の請負を業とする会社であり、事故当時従業員七名を有していたが、事故防止のため当時車両を全く所有しておらず、車を必要とするときは運送会社にこれを依頼し、あるいはタクシーを利用していた。

被告相谷勝寿は平素より、従業員に対して業務に関連する車の運転を禁止し、従業員も右事項を守つて車を自ら運転することは全くなかつた。

当時訴外竹下は被告相谷組が請負つた都営住宅の防水工事の現場監督をしていたが、午後から勤務を休み現場を離れて業務とは全く関係のない私用のために乙車を訴外佐藤英雄より借用して運行の用に供したものである。

そうすると被告相谷組は乙車を運行の用に供したものとは言えず、又その業務執行中に生じた事故でもないから、被告相谷組には自賠法三条、民法七一五条の責任はなく、被告相谷勝寿にも民法七一五条第二項の責任はない。

四  弁済の主張

被告相谷組は原告に対し合計五七万七一五七円を既に支払つている。なお原告が訴外竹下の支払と主張している分は被告相谷組が支払つたものである。

第三証拠関係〔略〕

理由

一  原告主張第一項の(一)ないし(六)の事実については当事者間に争いがなく、同(七)の事実につき、〔証拠略〕から、原告は本件事故により、脳挫傷、前頭部挫創、前頭骨陥没骨折、顔面挫創、硬膜内外血腫の傷害を負い、その治療のため少くとも入院通算日数一一六日、通院実日数二三二日を要したが、右眼失明、前頭部骨欠損、三重線状傷痕等、労災七級に相当する後遺症状が残つた他頭蓋骨欠損部は骨再生が進行中であるため化膿の可能性が高くて人工骨による形成再手術が出来ず、再手術の時期も決定できかねる状態であることが認められる。

二  次に被告らはいずれもその賠償責任を争うので、以下判断する。

(被告勇和ドレス)

〔証拠略〕によると、被告嶋崎富志代は事故当日から、実兄被告嶋崎の経営する被告勇和ドレスに縫製等の手伝をすることとなつたこと、事故当日被告勇和ドレスの保有する甲車を、同被告の用事で運転している時本件事故が発生したことが認められ、この認定を左右するに足りる確証はない。そうすると被告勇和ドレスは被告嶋崎富志代をして甲車を自己のため運行の用に供していたことが明らかであるから、自賠法三条の責任がある。

(被告嶋崎)

前掲証拠によると、被告嶋崎は被告勇和ドレスの代表取締役(当事者間に争いない)であつたこと、被告勇和ドレスは事故当時一〇人程度の小規模な有限会社であること、被告嶋崎が一カ月程前に事故を起したので、その代りに運転の出来る被告嶋崎富志代が手伝いに来ることになつたこと、の各事実が認められる。

右認定の事実ならびに前記のように甲車により被告富志代が被告勇和ドレスの業務の執行中本件事故を起したことを併せ考えれば、被告嶋崎富志代に後記の過失がある以上、被告嶋崎は被告嶋崎富志代を直接指揮監督する立場にあつた者として、民法七一五条二項の責任を免れることはできない。

(被告相谷組)

〔証拠略〕によると、乙車を運転していた訴外竹下喜久蔵は本件事故当時土木建設請負業被告相谷組の従業員であつて主として現場監督の任にあたつていたが、現場監督の仕事だけに限らず、必要に応じて諸種の雑用(材料の運搬等)も手が足りないときは行つていたこと、事故当日は被告相谷勝寿が現場監督をしていた小岩の民間の新築工事に同人を補助するため手伝いに行つていたこと、右工事は被告相谷組の材料置場の近くに材料置場を有して眤懇の下請大工の訴外佐藤英雄があたつていたこと、事故当日訴外竹下は被告相谷勝寿からの指示で訴外佐藤英雄の乙車を借りて運転中、本件事故を惹起せしめたこと、訴外佐藤英雄は訴外竹下に乙車を貸してくれと言われ、前にも何度か貸したことがあるために気安くこれを承諾したこと、の事実が認められる。

右認定事実によれば、訴外竹下は被告相谷組の仕事の範囲内で、それに関連して乙車を運行の用に供して業務執行中本件事故を惹起せしめたものであるから、被告相谷組は自賠法三条の責任を免れることはできず、又後記の如く従業員訴外竹下に過失がある以上、民法七一五条一項の責任もあると言わなければならない。

被告相谷組は訴外竹下が業務と全く関係のない私用運転中本件事故を惹起せしめた旨主張するが、これを認めるに足りる確証なく、前認定のような現場監督の補助をしていた者が、そこで使つている下請の車を勤務時間中に運転したという外観がある以上、たまたま建築材料が事故時乙車に積まれておらず、材料置場に向うにはやや迂回路であつたにしても(訴外竹下が寄道をしたとしても)、被告相谷組は右責任を回避することまではできない。

(被告相谷勝寿)

被告相谷勝寿が被告相谷組の代表取締役であることは当事者間に争いがなく、〔証拠略〕から、被告相谷勝寿が被告相谷組の従業員訴外竹下を建築工事に際して直接指揮命令していたことが認められる。

そうすると被告相谷勝寿は被告相谷組に代つて工事に関し訴外竹下を監督していた者と言うべきである。もつとも、同被告は自己の監督下にある前記小岩の新築工事に訴外竹下を回わしていなかつた旨供述するが右供述は〔証拠略〕に照らすとにわかに措信しがたい。又、同被告が日頃事故防止のため被告相谷組に自動車をおかなかつたことは認められるも被告相谷組の業種からして自動車は必要欠くべからざるものと言うべく、少くとも訴外竹下のような形態で自動車を使用することまでも禁止していたとはにわかに認めがたい。そうすると訴外竹下に後記過失がある以上これを直接指揮監督する立場にあつた被告相谷勝寿は民法七一五条二項の責任を免がれることはできない。

(被告嶋崎冨志代)

〔証拠略〕によると次の各事実が認められ、この認定を左右するに足りる確証はない。

(一)  本件事故現場の状況は凡そ別紙図面のとおりである。

(二)  被告嶋崎冨志代は甲車を運転して別紙〈ア〉→〈イ〉の方面に向け時速約四〇キロメートルで進行したところ、約二五・五メートル先の同図面〈1〉付近に交差点に進入しようとしている乙車を認めたが、自車が広路を走行していることに気を許し乙車が停止もしくは徐行するものと考えてそのまま進行したため、自車に道を譲らず交差点に進入して来た乙車との衝突の危険を感じたときは時既に遅く、何らブレーキをかけあるいはハンドルを切ることもなく乙車の後部に激突し、乙車の前部を中心としてほぼ半回転させるとともに乙車をして付近を歩行中の原告に衝突するに至らせた。

(三)  訴外竹下喜久蔵は乙車を運転して京成線路の方から進行して本件交差点にさしかかつた際、右方から本件交差点に向つて進行して来る甲車を〈ア〉地点付近に発見したが、いまだ同車との距離もあり、同車が来る前に交差点を横切れると判断し、ギアをサードに入れて減速状態から加速し、ほぼ時速三五キロメートル程度の速度で〈2〉地点に至つたため、何ら減速せず、時速四〇キロメートルの速度で走行してきた甲車の進行を妨害する形となり、その後部を甲車前部に衝突された。

右認定事実によると、被告嶋崎冨志代は約二五・五メートル手前で乙車が交差点に進入しようとしているのを発見したのであるから、乙車の進行状況からそのまま交差点に進入してくることを察知し、直ちに減速の措置をとるべきであるのにこれを怠つた過失があるとともにブレーキハンドルの操作不適当の過失があると認められる。

よつて同被告は民法七〇九条の責任がある。

一方、訴外竹下にも狭路から明らかな広路の交差する交差点に進入するのであるから、広路を走行する車両の動静を確認し、安全を確かめてから進入すべきであるのに、甲車が近接しつつあるにも拘らず、その速度や走行位置を確かめることなく甲車の進行前方に進出し同車の進路を妨害した過失が認められる。よつて被告相谷組の免責の主張は理由がない。

そしてこの両者の過失を比較すれば、形だけでは乙車が先入車ではあるが(当時の道交法では先入優先の規定が存した)。全く広路進行車の優先関係を無視した先入方法を採つている点ならびに甲車にハンドル、ブレーキ等避譲に必要な措置を全くとつた形跡はないこと両車の衝突位置等を考慮すれば、広路車である甲車六、狭路車である乙車四の過失割合になるものと認められる。

三  損害

原告に生じた損害は別紙計算書のとおりである。

(治療関係費について)その数額は当該損害費目末尾記載の証拠により認める。将来の再手術費についてはその必要性は認められるがその時期、数額を確定するに足りる証拠がないのでこの点は慰藉料で斟酌することとする。

(逸失利益現価について)原告の後遺症による労働能力の減少およびその評価額については計算書の数額をもつて相当と認める。

確かに被告らの主張のとおり、原告はいまだ年少者であり、遠い将来の就職先については、その後遺症による影響も少いところを選ぶことも可能であるが、それが確実であると言えるためには社会的な与件すなわちその能力を判断して、それにふさわしい職場が与えられるという制度が前提となるのであつて、この前提が明らかではない現在において被告らの主張は単なる希望的観測にすぎず、この程度の推測も許容しなければならないとすれば、後遺症のためのコンプレツクスから成人して後の原告の生活が極度に破綻しあるいは職場での競争から取り残されることも当然その予測の範囲内に置かなければならない。

そうすると現時点で原告の後遺症による財産的損害を算出するにあたつては、一般的な算定方法のもとに多少ひかえ目な算出基礎をとれば、被告らに特段の不利益を及ぼさないものと解さざるを得ない。その意味では、原告の主張の昭和四三年度の「賃金基本統計調査」(当裁判所に顕著である。)は現在の貨幣価値・賃金事情から見れば極めてひかえ目であり、労働能力喪失率については五〇%程度と見れば、右眼失明ならびに前額部に長さ一〇センチメートル幅三センチの骨欠損のある者の労働能力喪失部分として高率であるとは言えないのでこの限度において別紙計算書のとおりの逸失利益現価を算定した。

(慰藉料について)

本件事故で蒙つた原告の傷害、入通院の期間ならびに後遺症・〔証拠略〕から認められる原級留置の処分ならびに〔証拠略〕から認められる原告の母親である同女自身も雙眼であり、又本件事故により原告の家庭内に与えた悪影響その他諸般の事情を考慮すれば長期間前記後遺症に悩まねばならない原告に対しては別紙計算書記載の金員をもつて慰藉するのが相当と認められる(ちなみに原告は事故当時七才男子であり、その平均余命は厚生省第一二回生命表によると六二・六八年であり、六二年のライプニツツ係数は一九・〇二八八である。後遺症分二〇〇万円を逆算すると原告の慰藉料は年一一万五六一四円、月当り一万円弱にすぎない。年月の経過により、多少後遺症による精神的苦痛の馴化はあるにしても、今後、進学、就職、結婚等をひかえている原告の如き年少者の慰藉料としては決して高きに失するものではない。原告の如き一生残存する肉体的一部欠損の後遺症に対しては年令差を斟酌の事情として特に加味しなければ、寧ろ被害者相互の均衡を失することとなろう。)

(損害の填補について)

原告が自賠責保険金一七五万円を受領していることは原告の自陳するところであり、被告相谷組から原告に対し治療費として三九万二七三七円が支払われたことについては当事者間に争いがないが、その余の金員については本訴請求内の治療費、付添費等にあてられたことを認めるに足りる証拠はない。

(弁護士費用について)

原告が本訴追行を原告訴訟代理人に委任したことは記録上明らかであり、これに証拠蒐集の難易、被告らの抗争の程度その他諸般の事情を考慮すると弁護士費用を除く認容額の一割以下である原告の主張の金員は本件事故と相当因果関係にある弁護士費用と認めるのが相当である。

四  よつて原告が被告らに対し七四八万八一三四円およびこれに対する記録上明らかな訴状送達の日の翌日である昭和四六年六月二二日から支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は理由があるので認容し、その余は失当であるから棄却することとし、訴訟費用については民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言については同法一九六条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 佐々木一彦)

計算書

(1) 治療関係費 137万6,303円

入院治療費 109万0,003円(成立に争いのない甲2~4、7、8、11、12、14号証により認める。)

入通院付添費 23万2,000円(上記書証より認められる入院通算日数通院実日数に応ずる年少者である原告の家族の付添費としては入院1日1,000円、通院1日500円の割合により評価するのが相当であるのでその範囲内である右金員は相当である。)

通院交通費 1万0,000円(上記書証から認められる通院実日数を見ると右金員程度の交通費は推認に難くない。)

特殊義眼代 9,500円(原告の傷害部位ならびに弁論の全趣旨により認める。)

入院雑費 3万4,800円(上記入院日数を考慮すると当裁判所に顕著な入院雑費1日300円の範囲内であるから左記金員は相当である。)

(2) 逸失利益現価 445万4,568円

(年令)遅延損害金の起算日である昭46.6.22現在11才(記録欄綴の戸籍謄本)

(稼働期間)18才(高校卒)~60才

(収入)昭和43年度賃金センサス新高卒男子平均賃金年収による。(当裁判所に顕著な統計資料)

48,000円×12+143,500円=719,500円

(労働能力喪失率)50% (本文参照)

(中間利息の控除)年5分の割合によるライプニツツ計算法による。

18年-11年=7年(7年の係数5.7863)

60年-11年=49年(49年の係数18.1687)

(計算)719,500円×50/100×(18.1687-5.7863)=4,454,568円

(3) 慰藉料 330万円

後遺症分 200万円 (本文参照)

入、通院分 100万円

その他 30万円

(4) 損害の填補 214万2737円

自賠責保険金分 175万円 (本文参照)

その他 39万2737円 (〃)

残額は(1)+(2)+(3)-(4)=698万8134円

(5) 弁護士費用 50万円 (本文参照)

(6) 認容総額 748万8134円

別紙図面

〈省略〉

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